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お前だけでいい 10

Author: 花室 芽苳
last update Huling Na-update: 2025-07-31 08:17:21

「……ああ」

 要《かなめ》はいつものように私の隣には座らず、椅子を持ってきて私の正面に座った。ちゃんとお互いの目を見て話をしようという事なんでしょうね。

 要のその真っ直ぐな考え方、私は嫌いじゃないのよ。

「ずっと要に聞く勇気の無かった私も悪かったとは思うわ。だけどこんな形で、それも……彬斗君から聞かされたくはなかったの」

 狡い事を言っている自覚はあった。要だけが悪いんじゃないってちゃんと分かっているのに。

 私もずっと怖がって本人に確かめないまま時間だけが過ぎて……それなのに、こうして他人から話を聞いてから要を責めてしまっている。

「そうだな。俺が紗綾《さや》にきちんと話をしなければ、こうなるかもしれないと分かってはいたんだ。ただ……俺も紗綾からどんな反応をされるのかが怖かったのかもしれない」

 要の言葉に、私は少し戸惑ってしまう。いつも自信に満ち溢れているような要がそんな風に思っていたなんて。

「紗綾も聞いた通り父親が死んでから大学卒業まで、俺は母の再婚相手……柊《ひいらぎ》社長から援助を受けていたんだ。柊社長は俺を彼の息子の悟《さとる》と同じように大事にしてくれた。だから……」

「だから、少しでも柊社長と悟さんの役に立てるよう、柊社長の会社に就職したってわけね?」

 私の問いかけに要は静かに頷いた。分かっている、要はとても真面目な人だもの。そんな風にお世話になった人のためなら、役に立ちたいときっと考えるはず。

 だけど、私が本当に気になっているのは……

「じゃあ、要が本社に戻って悟さんの補佐に就くっていう話も本当なのね?」

「紗綾《さや》の言う通り、柊《ひいらぎ》社長と悟《さとる》にそう望まれているのは本当の事だ。だが、既に決定した話という訳でもない。だから……」

「だから、なによ?」

 そんな思わせぶりな言い方しないでよ。要《かなめ》が恩人にそう望まれて、簡単に断れるような性格じゃないってことくらい私にだってわかっているのよ?

 多分、要は私が必死になって引き止めたりしなければきっと……

「紗綾がこれからの事をどう考えているのか、俺はそれを聞きたいんだ」

  狡いんじゃないかしら? そうやって、貴方の未来を私に選ばせようとするのは。

 私だって貴方に、自分の未来は自分で決めてもらいたい。その上で私を選んで欲しい……そう思っているのに。

「私がああしろ、
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